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存在と知

存在と知-マンダラの物理

 千二百年前に、空海は五つの知の根本と、その根本の知のもつ四つの<ちから>と、それぞれのちからの<はたらき>を四方に展開することによって、世界の本質図<マンダラ>を作り上げた。
 その本質によって、世界はうごいている。(マンダラ図に描かれている、「如来」がその知の根本の<ちから>を示し、「菩薩」が知のちからの<すがた・はたらき>を示し、「明王」がからだを制御しているエネルギーのちからとそのはたらきを示している。それらによって世界はうごく)
 空海の説く知とは、あらゆる生物が持ち分の知覚によって、万象の存在をとらえて生きる無心の知であり、知が無ければ存在(という概念)はない。
 さて、本論では、その生物の一員でもあるヒトが今日の数理・物理・脳科学などによってとらえている、万象の存在理論の要点を記し、それらが、空海の作成したマンダラの知の構造と重ね合わせることができるものなのかを考察したい。

Ⅰ 存在の生成
(1)存在の元素を粒子とすると、粒子と粒子の間に、粒子を結び付けている何らかの<ちから>の存在が観察されることによって、粒子の存在が確認される。
(2)その何らかの<ちから>は、物質においては<エネルギー>の有無の観測によってとらえられ、その観測結果は、ヒトの<知覚>によって確認される。そのとき、その場に生じている<ちから>の根元は、物質においては<引力・電磁気力・核力・崩壊力>の四つであり、脳内においては<イメージ:形象・シンボル・単位・作用>の四つである。 
-それらの<ちから>によって、観察者は対象とするものの存在を認知している。
(3)観察者の前で、粒子の形成する<すがた>はじっとしていない。
-それは、粒子間に生じる<ちから>によって粒子は結び付き、<すがた>を形成することができているから、そのちから、すなわちエネルギーは一瞬なりとも止まることはなく放出され、微妙に変化しているからだ。
(4)そのようにして変化し続ける粒子の集合によって形成される<すがた>は、時間の経過とともに空間に沈殿し、収斂(しゅうれん)し、最善の効率の<かたち(構造)>に収まろうとする。そして、その安定するかたちを保ちながらも、微弱な変化をし続ける。
-物質の構造においてその物理的特性として、粒子を結び付けている<ちから>に起きている止むことのない<波動>のゆらぎは、最小限の空間に最大限の存在を包含する<かたち
(構造)>を生み出そうとする。(形成された<すがた>を折りたたむ・巻く・捩じる・編むなどし、球体やドーナツ体の中に仕舞い込む。あるいは連鎖するための多様な幾何学形を作り出す。また、ヒトの脳裏に浮かぶイメージにおいては、万象のひびきを<声音>にして、そして、その声音を<文字>のかたちに収斂するなど)
(5)前項によって
 ・物質は究極的に「核」に収斂する。
 ・生物は究極的に「種子」に収斂する。
 ・イメージは究極的に「文字」に収斂する。
(6)以上の原理と同じ原理によって、空海はヒトの知の<ちから>と<はたらき>をマンダラの<かたち(構造)>に収斂させた。
-ヒトは、神経細胞<ニューロン>の電気的パルスによって脳内に浮かぶイメージを、
「形象」:万象の色彩・形態・動きによるすがた(大マンダラ)
「シンボル」:象徴となる事物・事象/声音のひびき(三昧耶マンダラ)
「単位」:数と言葉による理論(法マンダラ)
「作用」:万象の相互作用/ヒトの行為(羯磨マンダラ)
によって表現し、伝達する能力をもつが、それらの知を収斂させたものがマンダラである。(マンダラの構造の基本は、中心に知のエネルギーを発する<ちから>の主体があり、そこから生じる四つの知の<ちから>が四方に配位され、そのそれぞれの<ちから>に存在を生起させる<はたらき>があるとする。それらの全体と個のはたらきの包括的な相互作用によって、すべての知が生成しているとする)
(7)収斂したあらゆる物象と事象は、その収斂した<かたち(構造)>によって、その中に、凝縮したエネルギーを貯え続けるが、やがては、自らの臨界点によって構造を崩壊させ、粒子に戻り、新たな生成の場へと向かう。(その寿命をあらゆる存在がもつ)
(8)こうして、<すがた>の存在していた場に虚空が生まれ、<かたち(構造)>の崩壊した分だけの空間が宇宙に広がり続ける。
(9)その広がり続ける宇宙の中で、「在ることと無いこと」を認識し、その世界観を楽しむことができるのは、すべて、ヒトの知によって観察・識別された事柄と、数と言葉の理論知のおかげである。
(10)そのように、ヒトの知によって、全宇宙はその<すがた>を現わし、展開し、収斂する<かたち(構造)>を生み、やがて、自ら崩壊し、また、粒子に戻り、次なる<ちから>の元になる。その<ちから>から新たなる<すがた>がまた、生成する。(そうして、物質・生命のミクロの世界であろうが、マクロの広大無辺の空間であろうが、同じ物理学的構造をもつ宇宙が進化をし続ける)

 以上が、万象の存在についての今日の知の根幹である。どうやら、マンダラの知の構造と同質のものである。

Ⅱ 知の本質
(1)ヒトの知は、宇宙における存在を、生成・展開・収斂・崩壊としてとらえている。また、それぞれの存在をとらえるにあったって、そこにある<ちから>を「作用」とし、その作用を引き起こしている存在を<作用主体>として、その相対性によってあらゆる存在のすがたを確認している。
(2)したがって、それらによってとらえられた存在が宇宙のすがたであり、その宇宙はヒトの脳内に生起したものである。
(3)その脳内宇宙の中で、ヒトは万象をイメージし、そのイメージを多様な<かたち>にし、表現・伝達している。
(4)そうして、(ヒト科社会においては)
 「宗教」:霊なるちからの本体への帰依と生きる節度。
 「芸術」:各種メディアによる美のイメージの形象化。
 「哲学」:言語による真理の論証。
 「科学」:万象の識別と実証、技術とモノづくり。
が生まれた。
(5)ヒトはそれらを信仰し、共感し、理解し、分析し、文化を築き生きている。
(6)(ヒト科における)知の本質がそこにある。
(7)ヒトは「存在とは何か」を命題とし、その謎を解く知をエネルギーとし、そして、五感・手足・言語をツールとして生きている。
(8)そのヒトは、親があることによって、この世に生を受け、呼吸をし
衣食住を生産・取得し、その相互扶助によって生き
 世界を観察し、真理を求め
 身体(からだ)によって世界に遊び、他とコミュニケーションする。
 その生を通じてヒトは、あらゆる存在に対面し
 知の<ちから>と<はたらき>によって、それぞれの宇宙を表現し
 表現された宇宙は"知"としてヒトビトに伝達され、文化を築くことができる。
 そして、肉体は寿命を終えると崩壊し、元の物質に戻る。

 -空海はまさしく、その"知"の大道を実践したヒトであった。

あとがき
 物質の基本的構成要素は古代の原子の概念から始まる。しかし、今日では、原子は原子核と電子によって形成され、原子核は陽子と中性子などへと細分化されるようになった。そうして、それらは固体としての物質のイメージをもたないものとなった。その存在を粒子(素粒子)と呼ぶ。粒子は空間的な広がりをもつものであり、雲の濃いところとか、薄いところとかの<すがた>をもつものである。その粒子は衝突によってつぎつぎとすがたを変えていると云う。
 それらの粒子間の相互作用によって、すべての物理的な<ちから>と<はたらき>が生じていると今日の物理学者が説く。
 その究極の存在知を元として、わたくしたちの生がある。生きていることと物質との融通無碍の世界、そして、知の無限性、その広大無辺の世界に空海は気づいていた。
                                             

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