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即身成仏義

 弘法大師の思想の中核は何かと言えば、即身成仏思想だと断定して誤りがなかろう。それは大師が入唐求法中に、不空三蔵の思想及び恵果阿闍梨の思想の基調が即身成仏にあることを記した文書をあつめて、のちに付法伝の中に収録しており、また自ら恵果阿闍梨を追弔する碑文の中にも、師の教えの中核が即身成仏にあったことを明らかにしている。さらに帰国に際して「本国の使に与えて共に帰らんと請う啓」の中にも、自ら学習した密教の特質を、攘災招福と即身成仏の二つとなしている。また帰国後早々に記した御請来目録の中にも、即身成仏が真言密教の特質であることを表明している。さらにその後の多くの著作の中でしばしば即身成仏思想を強調しており、即身成仏思想の強調は大師の生涯を通じての一大思想運動であったと見ることができる。
 本書はこのような大師の生涯を通じての即身成仏思想運動の展開の中にあって、即身成仏思想の組織化に努めたものであり、大師の思想の一大特質を示すものである。
 その内容は二経一論八ヶの証文と、六大無礙常瑜伽云云の二頌八句、およびそれの解説とから成るが、そこには六大、四曼、三密を体相用の三大思想で解釈し、六大、四曼によって原理的に成仏の可能性を明らかにし、三密によって実践的に成仏の可能性を明らかにした。また本覚思想が強調されていることも注意しなければならない。

 なお大師の即身成仏思想を考える場合に注目すべきは、伝教大師最澄の大直道、飛行の無礙道、あるいは速疾成仏の思想である。これらの思想は無量義経と法華経によったものであって、弘法大師の即身成仏思想が密教の経論に基づいているのとは異なる。このように両者はその思想背景も思想構造も異なるにもかかわらず、法相宗を中心とする三劫成仏思想を排撃する点では共通の思想運動を展開したのであり、平安初期における一大思想運動として日本仏教史上忘れてはならぬことである。
 本書の著作年代は不明であるが、六大思想が大師の著作の中にしばしば述べられるのは天長の初年以後であるから、この点から見れば本書の著作もこの頃と見て、弘仁の末か、天長の初年と推定される。
(『弘法大師著作全集』第1巻(山喜房仏書林、1968年)解説、勝又俊教)


【要文名句】               
●『金剛頂経』(『金剛頂経一字頂輪王瑜伽一切時処念誦成仏儀軌』)に説かく、「この三昧(一字頂輪王(「ボロン」の一字真言で表される金輪王(大日)の三摩地法)を修するものは現に仏菩提を証す」と。
●またいわく、「もし衆生あってこの教に遇い、昼夜四時に精進して修すれば、現世に歓喜地を証得し、後の十六生(金剛界の十六大菩薩が出生する段階)に正覚を成ず」と。
●またいわく、「もしよくこの勝義によって修すれば、現世に無上覚を成ずることを得」と。
●またいわく、「まさに知るべし、自身すなわち金剛界となる。自身金剛となりぬれば堅実にして傾壊なし、われ金剛身となる」と。
●『大日経』にいわく、「この身を捨てずして神境通を逮得し、大空位に遊歩して、しかも身秘密を成ず」と。
●またいわく、「この生において悉地に入らんとおもはば、その所応にしたがいこれを思念せよ。まのあたり尊の所において明法を受け観察し相応すれば成就を作す」と。
●また龍猛菩薩の『菩提心論』に説かく、「真言法のなかにのみ即身成仏するが故に、是れ三摩地の法を説く。諸教のなかにおいて闕して書せず」と。是れ三摩地(の法)を説くとは、法身自証の三摩地なり。諸教とは他受用身所説の顕教なり。
●またいわく、「もし人仏慧を求めて菩提心に通達すれば、父母所生の身に速に大覚の位を証す」と。
(以上、二経一論八箇の証文)
● 六大無礙にして常に瑜伽なり 体
  四種曼荼は各々離れず 相
  三密加持すれば速疾に顕わる 用
  重重帝網なるを即身と名づく 無礙
  法然に薩般若を具足して
  心数心王刹塵に過ぎたり
  各々五智無際智を具す
  円鏡力の故に実覚智なり 成仏
(以上、二頌八句)

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【参考文献】               
★『弘法大師著作全集』第1巻(山喜房佛書林、1968年)
★『弘法大師空海全集』第2巻(筑摩書房、1983年)
★『現代語訳 即身成仏義』(福田亮成、ノンブル社、1996年)

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