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胎蔵マンダラ-知の方舟- New

はじめに 知の本質

 生物は体内に摂取した空気と栄養分によって、その身体を維持する物質とエネルギーを自ら生産して生きている。
 その能力こそが生きとし生けるものが共通してもつ知である。
 人間は脳細胞と記憶と前頭葉による精神という名の知をもつが、その精神によって"苦"や"因果"という余計な思いを抱え込むことになった。
 知の発生は本来、生命の物質に関わる反応を基盤としたものだが、人間はその上に精神なるものを発達させたものだから、大乗仏教ではその精神性の知にとらわれてしまい、インドの仏教学者ナーガールジュナ(龍樹)の説いた「現実の存在を論理によって考察しても固定した実体を証明することはできない」だから、有無双方の認識の間に存在が成立しているとの教えを誤解し、すべては"空(くう)"であるとして、信者を際限のない諦観の世界へと追いやってしまった。
 その精神性の知に偏れば幾ら修行を積んでも、生きている間に人は救われるはずもない。
 若き日の空海は山岳修行によって、本来の知のちから、すなわち、生命のもつ根源の知のちからに気づいていたから、その生きるための実質的な知を説く経典が何処かに必ずあるはずだとして、寺々を探し回ったという。
 その経典こそが『大日経』であった。余計な論理ではなく、実相として存在している知を説く教えである。
 その知を感得さえすれば、生きている間に人は救われる。

 大陸に渡った空海は『大日経』とその先にある『金剛頂経』を学んだ。
 そうして、それらの経典と共にそのそれぞれの教えを絵図にしたものを日本に持ち帰った。それが両部マンダラである。
 金剛界マンダラは人が実在する知によってどのように生きるのかの原理を説き、胎蔵マンダラは物質と精神とがもたらす知の世界の全体像を説く。大乗の説く精神世界の教えだけでは人は救えない。生きとし生けるものは実在している知によって生きているのだ。
 その真の知をビジュアルに編集したものがマンダラである。
 そこに余計な"煩悩"などはない。

 以下はそのマンダラについて解釈を試みるが、金剛界マンダラは当サイトですでに論考済みなので、ここでは胎蔵マンダラにアプローチする。

マンダラのもう一つの見方

 初めに全体の構成と各ゾーン(院)のもつ意味を今日の科学や思想がもたらした知の視点でとらえ、その神秘と思われている世界の扉を開きたい。

 □その今日的構図

 知は生命があって存在し、その生命は物質から生まれ、物質はエネルギーが存在することによって発生した。
そのことがマンダラの下方部に図示されているととらえると、
Ⅰ一番下にあるのが万物の元であるエネルギー〈蘇悉地(そしっじ)院〉。
Ⅱその上にあるのが万物の構造を示す〈虚空蔵(こくうぞう)院〉。
Ⅲその上にあるのが生命の成長と維持を司る物質のはたらき〈持明(じみょう)院〉。

 以上の三層の物質的要素があって生命が存在できるから知も存在する。
Ⅳその生命のもつ根本の知のちからを、泥田に咲く八弁の蓮の花によって例えた〈中台八葉(ちゅうだいはちよう)院〉がマンダラの中央に据えられる。
 また、すべての生命は五つの形質(固体・液体・エネルギー・気体・空間)によって出来ているから、そのことを五つの色の線〈五色界道(ごしきかいどう)〉で表わし、知を囲む。

 物質から形成されている生命の存在と、その生命のもつ根本の知のちからを示す中央の中台八葉院の上には、
Ⅴ母胎・母性・信仰・生命・寿命が精神の根源であることを示す〈遍知(へんち)院〉が置かれる。

 Ⅵ人はこの世に生まれて来るから病み、老い、死ぬのだが、そのことを思うと心が苦しい。それを克服するにはどうすればいいのか、その苦に向き合い、出家し、数々の苦行を経た末、苦行を止め、河で体を清め、村娘の施してくれた食事を摂り、体力を回復し、静かに瞑想に入り、さとりを得て自己の煩悩を鎮めたのが仏教の開祖釈迦牟尼(しゃかむに:インド・シャーキア族の長で静かに瞑想し、無言でいる人の意味)である。その人の存在を示す院〈釈迦院〉が遍知院の上に乗る。
 この院では釈迦とその弟子たちを登場させ、信仰によって精神的に生きることとはどのようなことなのかを示す。彼らが釈迦の教えを学び、その宗教的生き方を実践できたのは、彼らに母親がおり、その母性という慈愛に恵まれてこの世に生まれ出ていたおかげである。

 そのまた上には、
Ⅶ精神が生み出す究極の創造性〈美〉とは何かを示す〈文殊(もんじゅ)院〉が置かれる。

 ここまでが物質から生命へ、その生命のもつ知から人間のもつ精神への縦軸。

 次が中央の根本の知のちからが展開する相対的な左右の知とその行き先にある世界観。
 左には、
Ⅷ感性による二十一の知の展開〈観音(かんのん)院〉。
Ⅸその知の先には大地の恵みと共に人が心を大切にして生きる世界〈地蔵(じぞう)院〉が置かれる。

 右には、
Ⅹ理性による二十一の知の展開〈金剛手(こんごうしゅ)院〉。
Ⅺその知の先には文明のもたらす利便性と共に、人が物質的豊かさを得て生きる世界〈除蓋障(じょがいしょう)院〉が置かれる。

 これらの上下左右のそれぞれの一番外側に配置されているエネルギー・大地・創造・文明が知の成す世界の表層部である。

 Ⅻその知の世界を天体の星々と神話の神々(これらを観測したのも、創作したのもすべて人の知である)が取り巻いている〈最外(さいげ)院〉。

 以上のような知がもたらす世界が見える。

 このすがたを文脈にすると「エネルギーから宇宙と物質元素が生まれ、その各種元素どうしが化学反応を繰り返すことによって有機物質が生まれ、その分子どうしが化合や分離を起こすことで独自にエネルギーを作り出せるようになったから生きる物質"生命"が誕生し、その多種多様な生命が生態系を形成して、自然界を創り出した。
 その生命の一員でもある人間は知を記憶することによって精神なるものを獲得したが、その精神が神々と宗教と思想を生み出し、物づくりや社会づくりや人間関係にも関与することになった。
 その精神のはたらきには感性と理性があり、それぞれの生み出す知によって人間世界が築かれるが、ざっと見れば、感性が心の表現とその交流による暮らし、理性が科学と技術、つまり物質的な豊かさを得る暮らし」ということになる。

 さて、胎蔵マンダラのもつ構図をまず今日的に解釈したが、次に各院に配されている諸尊についても考察する。
 果たして、各院の中の諸尊のもつ知のちからとはたらきは、今日の科学や思想が行き着いたところにある概念(知)と一致するのだろうか。

 □今日の概念と諸尊の対比

Ⅰエネルギー(物質の力)〈蘇悉地院〉

 (中央左)
 1、代謝作用〈不空供養宝(ふくうくようほう)菩薩〉
 2、解毒作用〈孔雀王母(くじゃくおうも)菩薩〉
 3、同化作用〈一髻羅刹(いっけいらせつ)〉
 4、異化作用〈十一面(じゅういちめん)観自在菩薩〉
  ―――
 (左端:上部〈虚空蔵院〉の千手千眼観自在菩薩の侍者二尊ともなる)
 9、分子〈婆蘇山(ばすせん)〉
 10、分子〈功徳天(くどくてん)〉
  ―――
 (中央右)
 5、核〈不空金剛(ふくうこんごう)〉
 6、熱〈金剛軍荼利(こんごうぐんだり)菩薩〉
 7、光〈金剛将(こんごうしょう)菩薩〉
 8、電気〈金剛明王(こんごうみょうおう)〉

Ⅱ万物の構造〈虚空蔵院〉

 (中央)
 1、万物の構造〈虚空蔵(こくうぞう)菩薩〉《主尊》
  ―――
 (左)
 2、生命の構造(分子生物学)〈檀波羅蜜(だんはらみつ)〉
 3、観察研究〈戒波羅蜜(かいはらみつ)〉
 4、遺伝の法則〈忍波羅蜜(にんはらみつ)〉
 5、遺伝要素〈精進波羅蜜(しょうじんはらみつ)〉
 6、遺伝子〈禅波羅蜜(ぜんはらみつ)〉
 7、染色体〈共発意転輪(ぐうほついてんりん)菩薩〉
 8、遺伝暗号の解読〈生念処(しょうねんじょ)菩薩〉
 9、遺伝情報の発現〈忿怒鉤(ふんぬこう)観自在菩薩〉
 10、遺伝子工学〈不空鉤(ふくうこう)観自在菩薩〉
  ―――
 (左端)
 11、DNA〈千手千眼(せんじゅせんげん)観自在菩薩〉
 12、13、分子〈飛天(ひてん)〉
  ―――
 (右)
 14、物質の構造(素粒子物理学)〈般若波羅蜜(はんにゃはらみつ)〉
 15、理論〈方便波羅蜜(ほうべんはらみつ)〉
 16、方程式〈願波羅蜜(がんはらみつ)〉
 17、量子力学〈力波羅蜜(りきはらみつ)〉
 18、物理学〈智波羅蜜(ちはらみつ)〉
 19、原子核+電子〈無垢逝(むくぜい)菩薩〉
 20、陽子+中性子〈蘇婆胡(そばこ)菩薩〉
 21、クオーク〈金剛針(こんごうしん)菩薩〉
 22、発見〈蘇悉地羯羅(そしっじから)菩薩〉
 23、宇宙〈曼荼羅(まんだら)菩薩〉
  ―――
 (右端)
 24、素粒子〈一百八臂金剛蔵王(いっぴゃくはっぴこんごうざおう)菩薩〉
 25、26、電子〈飛天〉

Ⅲ生命の成長と維持(内分泌物質)〈持明院〉

 1、視床下部(体温・摂食・飲水・性本能の調節)〈不動明王〉
 2、下垂体(成長促進・他ホルモンの分泌調節など)〈降三世(ごうざんぜ)明王〉
 3、松果体(光の明暗による二十四時間リズムの調節・子供の性機能発達調節・季節による繁殖など)〈般若波羅蜜多(はんにゃはらみた)菩薩〉
 4、副腎(ストレス反応調節)〈大威徳(だいいとく)明王〉
 5、甲状腺(全細胞基礎代謝の維持または促進・環境変化適応・昆虫等の変態促進など)〈勝三世(しょうざんぜ)明王〉

Ⅳ生命の根本知センター〈中台八葉院〉

 1、いのちのもつ無垢なる知のちから〈大日如来〉《主尊》
  ―――
 2、生態系に順応する知のちから〈宝幢(ほうどう)如来〉と
 6、その共生のはたらき〈普賢(ふげん)菩薩〉
  ―――
 3、自ら物(衣食住)を作り出す知のちから〈開敷華王(かいふけおう)如来〉と
 7、その相互扶助のはたらき〈文殊(もんじゅ)菩薩〉
  ―――
 4、対象を観察する知のちから〈無量寿(むりょうじゅ)如来〉と
 8、その学習のはたらき〈観自在(かんじざい)菩薩〉
  ―――
 5、身体動作の知のちから〈天鼓雷音(てんくらいおん)如来〉と
 9、その守りと攻めと技芸のはたらき〈弥勒(みろく)菩薩〉

Ⅴ精神の根底にある知〈遍知(へんち)院〉

 (中央)
 1、信仰の知の光〈一切如来智印(いっさいにょらいちいん)〉《主尊》
 2、信仰心〈優楼頻羅迦葉(うるびんらかしょう:人名)〉
 3、信仰心〈伽耶迦葉(がやかしょう:人名)〉
 (左)
 4、母性〈仏眼仏母(ぶつげんぶつも)〉
 5、母胎〈准胝仏母(じゅんでいぶつも)〉
 (右)
 6、勇気〈大勇猛(だいゆうみょう)菩薩〉
 7、長寿〈普賢延命(ふげんえんめい)菩薩〉

Ⅵ精神修養に関わる知〈釈迦(しゃか)院〉

 (中央)
 1、仏教の開祖ガウタマ・シッダールタ〈釈迦牟尼(しゃかむに)〉《主尊》
 2、身体知〈虚空蔵(こくうぞう)菩薩〉
 3、学習知〈観自在(かんじざい)菩薩〉
 4、唯我独尊〈無能勝(むのうしょう)金剛〉
 5、釈迦の妃〈無能勝妃(むのうしょうひ)〉
  ―――
 (左)
 6、釈迦の母〈一切如来宝(いっさいにょらいほう)〉
 7、釈迦の放つ知の光〈如来毫相(にょらいごうそう)〉
 8、説法〈大転輪仏頂(だいてんりんぶっちょう)〉
 9、知の集合力〈光聚(こうじゅ)仏頂〉
 10、釈迦のどこまでも行き届く声〈無量声(むりょうせい)仏頂〉
 11、悲しみの心〈如来悲(にょらいひ)〉
 12、人の不幸への細やかな思いやりの心〈如来愍(にょらいみん)〉
 13、慈しみの心〈如来慈(にょらいじ)〉
   ―――
 14、釈迦の威神力〈如来爍乞底(にょらいしゃきち)〉
 15、栴檀香(せんだんこう)のように芳しい独覚者〈栴檀香辟支仏(びゃくしぶつ)〉
 16、タマーラ樹の葉の香りのように稀なる独覚者〈多摩羅香(たまらこう)辟支仏〉
   ―――
  (弟子とその特質)
 17、大目犍連(だいもくけんれん):神通力第一
 18、須菩提(しゅぼだい):解空(げくう。空の理解)第一
 19、迦葉波(かしょうは):頭陀(ずだ。衣食住の節制)第一
 20、舎利弗(しゃりほつ):知恵第一   
   ―――
 21、喜無量心〈如来喜(にょらいき)〉
 22、捨無量心〈如来捨(にょらいしゃ)〉
   ―――
 (右)
 23、釈迦の博愛精神〈白傘蓋仏頂(びゃくさんがいぶっちょう)〉
 24、折伏(しゃくふく)〈勝仏頂転輪(しょうぶっちょうてんりん)〉
 25、最強の折伏〈最勝仏頂転輪〉
 26、無垢なる知の発生〈高仏頂(こうぶっちょう)〉
 27、煩悩を粉砕する知〈摧砕仏頂(さいさいぶっちょう)〉
   ―――
 28、釈迦の能弁〈如来舌(にょらいぜつ)〉
 29、優れた語学力〈如来語(にょらいご)〉
 30、柔和さ〈如来笑(にょらいしょう)〉
   ―――
 31、釈迦の論破力〈如来牙(にょらいげ)〉
 32、教説の一節を観じて独りで覚る者〈輪幅辟支仏(りんふくびゃくしぶつ)〉
 33、自らのもつ無垢なる知のちからにより独りで覚る者〈宝幅(ほうふく)辟支仏〉
   ―――
  (弟子とその特質)
 34、抱(倶)絺羅(くちら):問答第一
 35、阿難(あなん):多聞(記憶力)第一
 36、迦旃延(かせんねん):論議第一
 37、憂波利(うぱり):持律(戒律の実践)第一
   ―――
 38、学問力〈智鉤絺羅(ちくちら)〉
 39、広大無辺の供養〈供養雲海(くよううんかい)〉

Ⅶ精神による創造性〈美〉の規範〈文殊(もんじゅ)院〉

 (中央)
 1、創造知〈文殊師利(もんじゅしり)菩薩〉《主尊》
 2、学習知(左)と3、生存知(右)〈観自在菩薩と普賢菩薩〉
 4、実相(左)と5、表象(イメージ)(右)の相対性〈対面護門(たいめんごもん)〉
   ―――
 (左:美の表現要素)
 6、光の印象〈光網(こうもう)菩薩〉
 7、被写体〈宝冠(ほうかん)菩薩〉
 8、色の光(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)〈無垢光(むくこう)菩薩〉
 9、陰影〈月光菩薩〉
 10、万物の形質(地・水・光・風・空)の微妙な響き〈妙音(みょうおん)菩薩〉
  ―――
 (美の評価)
 11、"美"本不生〈阿耳多(あじた)〉
 12、存在感〈阿波羅耳多(あはらじた)〉
 13、空気感〈瞳母櫓(とむろ)〉
 14、楽しさ〈肥者耶(びじゃや)〉
 15、優秀さ〈者耶(じゃや)〉
  ―――
 (右:美の創造の五使者)
 16、生命の発する無垢なる知のちからの表象〈髻設尼(けいしに)〉
 17、無垢なる知のちからの表象の類型〈鄔波(うば)髻設尼〉
 18、多様な形〈質怛羅(しったら)〉
 19、自在性〈地慧(じえ)〉
 20、精進性〈鉤召(こうしょう)〉
  ―――
 (精進性に伴う美)
 21、22、23、24、25、追究美

Ⅷ感性(感覚とイメージと感情主体の思考)による知の展開〈観音(かんのん)院〉

 1、右脳〈蓮華部発生(れんげぶはっしょう)菩薩〉
 2、感情と意志〈大勢至(だいせいし)菩薩〉
 3、怒り(大悲)〈毘俱胝(びくち)菩薩〉
 4、慈悲〈聖観自在(しょうかんじざい)菩薩〉《主尊》
 5、女子力〈多羅(たら)菩薩〉
 6、明白さ〈大明白身(だいみょうびゃくしん)菩薩〉
 7、生命力〈馬頭観音(ばとうかんのん)菩薩〉
  ―――
 8、従順さ〈大隋求(だいずいぐ)菩薩〉
 9、清浄無垢〈窣堵波大吉祥(そとばだいきちじょう)菩薩〉
 10、伴侶〈耶輪陀羅(やしゅだら:釈迦の第一夫人)菩薩〉
 11、自由〈如意輪(にょいりん)菩薩〉
 12、幸福〈大吉祥大明(だいきちじょうだいみょう)菩薩〉
 13、遊び〈大吉祥明(だいきちじょうみょう)菩薩〉
 14、休息〈寂留明(じゃくるみょう)菩薩〉
   ―――
 15、擁護〈披葉衣(ひようえ)菩薩〉
 16、看護〈白身観世音(びゃくしんかんぜおん)菩薩〉
 17、寄付〈豊財(ぶざい)菩薩〉
 18、動物愛護〈不空羂索(ふくうけんじゃく)菩薩〉
 19、水の恵み〈水吉祥(すいきちじょう)菩薩〉
 20、万物の救済〈大吉祥変(だいきちじょうへん)菩薩〉
 21、すべての母(無償の愛)〈白処尊(びゃくしょそん)菩薩〉

Ⅸ大地(自然)の恵み〈地蔵院〉

 1、生態系〈除一切憂冥(じょいっさいゆうみょう)菩薩〉
 2、観察眼〈不空見(ふくうけん)菩薩〉
 3、産物〈宝印手(ほういんしゅ)菩薩〉
 4、自給自足経済〈宝光(ほうこう)菩薩〉
 5、大地の実り〈地蔵菩薩〉《主尊》
 6、手仕事〈宝手(ほうしゅ)菩薩〉
 7、風土〈持地(じじ)菩薩〉
 8、伝統文化〈堅固深心(けんごしんしん)菩薩〉
 9、科学技術による進歩(文明)との均衡〈除蓋障(じょがいしょう)菩薩〉

Ⅹ理性(概念を媒体とした思考能力)による知の展開〈金剛手院〉

 1、左脳〈発生金剛部(ほっしょうこんごうぶ)菩薩〉
 2、理性〈金剛鉤女(こんごうこうにょ)菩薩〉
 3、科学〈金剛手持(こんごうしゅじ)金剛菩薩〉
 4、存在〈金剛薩埵(こんごうさった)〉《主尊》
 5、原理〈持金剛鋒(じこんごうほう)菩薩〉
 6、技術と機械〈金剛拳(こんごうけん)菩薩〉
 7、発展〈忿怒月黶(ふんぬがってん)菩薩〉
  ―――
 8、哲学〈虚空無垢持(こくうむくじ)菩薩〉
 9、法〈金剛牢持(こんごうろうじ)菩薩〉
 10、倫理〈忿怒持(ふんぬじ)金剛菩薩〉
 11、観測〈虚空無辺超越(こくうむへんちょうおつ)菩薩〉
 12、法則〈金剛鏁(こんごうさ)菩薩〉
 13、実験〈金剛持(こんごうじ)菩薩〉
 14、実証〈持金剛利(じこんごうり)菩薩〉
   ―――
 15、産業(農林水産業・工業・サービス業)〈金剛輪持(こんごうりんじ)菩薩〉
 16、経済〈金剛説(こんごうせつ)菩薩〉
 17、所得〈懌悦持(ちゃくえつじ)金剛菩薩〉
 18、競争〈金剛牙(こんごうげ)菩薩〉
 19、発見と発明〈離戯論(りけろん)菩薩〉
 20、論理〈持妙(じみょう)金剛菩薩〉
 21、理論〈大輪(だいりん)金剛菩薩〉

Ⅺ文明(法と科学技術)の恵み〈除蓋障院〉

 1、医療〈救護慧(くごえ)菩薩〉
 2、更生〈破悪趣(はあくしゅ)菩薩〉
 3、知識〈施無畏(せむい)菩薩〉
 4、教育〈賢護(けんご)菩薩〉
 5、文明〈不思議慧(ふしぎえ)菩薩〉《主尊》
 6、共済〈悲愍慧(ひみんえ)菩薩〉
 7、福祉〈慈発生(じはっしょう)菩薩〉
 8、知性〈折諸熱悩(しゃくしょねつのう)菩薩〉
 9、環境破壊に対する自然(大地)の保護〈日光菩薩〉※
 ※この日光菩薩と地蔵院の除蓋障菩薩とを配置間違いとするが、当論考ではそのままの位置で正解と解釈する。感性には理性をあてがい、理性には感性をあてがうことによって文明の均衡と自然の保全を説いていると観る。

 Ⅻ天体の星々と神話の神々〈最外院〉

 この院に登場する個々については、当論考の趣旨から外れるのでその解釈を省く。
 ※個々を知りたければ当サイト"マンダラデュアリズム"の胎蔵曼荼羅のなかに入り、「外金剛部院」諸仏解説にアクセスすればインド神話の多くの神々と天体の星々が分かります。また、宮坂宥勝著『空海密教の宇宙-その哲学を読み解く-』第五章胎蔵曼荼羅の最外院の頁に、二十八宿(にじゅうはっしゅく)の星々などが詳しく説明してあります。

 以上。

 こうして、今日の概念を用いて各院の如来・菩薩・明王・使者などの個々のはたらきを明文化すると、それらの諸尊のすべてが"煩悩を断ち、慈悲を行なう"(因果の論理にとらわれず、実在している知の慈しみをもって生きとし生けるものが共に生きる)という共通の目的を担って、その目的を達成するためにそれぞれの役割を果たしているのがよく分かる。
 また今日からすれば、世界を検証するための知の規範表をマンダラの構図があったから、期せずして手に入れたことになる。
 マンダラとはもともとそのような知の法則を説くものであったのか。

まとめ

 気がつけば、マンダラの"知の方舟"が洋上に浮かんでいた。

 「今日も"物質と精神""実在と概念""大地と文明"のはざまで
 多くの知が生まれているが、
 その知の根底にはいのちのもつ無垢なる知のちから〈如来〉と
 その慈悲のはたらき〈菩薩・明王・使者〉がなければならない。
 でなければ生まれた知は蛇足に過ぎない。

 (エネルギーと物質があるから生命が誕生し、)
 その生命が知を開花させている〈中台八葉〉。
 知の上には精神〈遍知(信仰と母性)と釈迦(精神修養)と文殊(創造性)〉があり、
 知の下には物質〈持明(生命制御)と虚空蔵(万物の構造)と蘇悉地(エネルギー)〉がある。
 知の左には〈観音(感性)と地蔵(大地)〉があり、
 知の右には〈金剛(理性)と除蓋障(文明)〉がある。
 それらの知によって世界は構成されている。

 その世界を図示したものが胎蔵マンダラなのだ。
 その図が理解できたのなら、己の知の存在場所をその中に見つけなさい。
 おまえ一人の知は取るに足らないものであっても、
 その知は生命のもつ存在認識そのものの主〈大日如来〉と結びついているのだ。

 その知によって生きとし生けるものすべてが精一杯に生を楽しんでいる。
 そのためにおまえも生まれてきたのだ。そこにさとりがある。
 さあ、目覚めなさい。
 そうすればおまえの周りで世界が少しうごくだろう」。

 操舵輪を握っていた空海がそう私に教えてくれた。

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